「予想以上に軽くて温かい」。9月上旬、登山用品などを扱うアウトドアショップエルク(甲府市徳行4丁目)のバックヤード。常連の女性客がヤクの毛でできたセーターに腕を通すと、驚いた表情を見せました。
同社はアパレルブランド「MaHoRoBa(まほろば)」を立ち上げ、10月からヤクの毛を使ったニット製品の販売を始めます。製品は自然環境で分解され、環境に負荷をかけない「生分解」が可能といい、国連が提唱する持続可能な開発目標(SDGs)のうち「海の豊かさを守ろう」などに貢献します。
エルクによると、ヤクは標高4千メートル以上の山岳に生息する寒さに強い動物。体毛はウールを上回る保温力を持ち、軽くて蒸れにくいためアウトドアに適した天然素材といいます。化学繊維は環境中で分解されにくいですが、「ヤクの毛は5年ほどで土に返る」(柳沢仁社長)とされています。
新ブランドはベビー子ども服メーカー「小林メリヤス」(南アルプス市)との協業。小林メリヤスが扱うヤクの毛100%で紡いだ糸を使い、同社や織物業の武藤(西桂町)に製造を依頼しました。セーターや帽子、手袋、ストールなどを販売。「全て山梨で生産し、山梨から発信します」(エルク)。
ブランドの立ち上げは、昨年1月にカナダの研究チームが公表した海洋汚染に関する調査結果がきっかけ。北極海の海水に、繊維状のマイクロプラスチックが大量に存在し、その9割がポリエステルなど化学繊維由来だとする内容でした。家庭で衣類1点を洗濯すると排水に何百万個もの繊維くずが含まれ、環境中に出ていると指摘していました。
エルクが創業した1980年代、アウトドアスポーツ人気を背景に、ポリエステル繊維でつくるフリース素材の製品が人気を集めました。ウールなど天然素材の製品よりも安価で軽量である上、量産が簡単なことからメーカー製品の主流に。同社も週末には1日100~200着を販売しました。
「アウトドアが好きで業としているからこそ、環境問題を身近なところから考え直す必要性を感じました」と柳沢社長は言います。妻で同社専務の孝子さんと化学繊維に替わる天然素材の製品販売を探り、ブランドを立ち上げました。
製品は創業記念イベントに合わせ10月22日に発売します。柳沢社長は「次世代に負荷を残さないよう、持続可能性を追求する視点で消費者に物を選んでもらえるきっかけになるといい」と話しています。
イベント名 | 海の豊かさ守ろう~生分解ヤクの登山製品 |